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平成18年9月28日 知的財産高等裁判所  平成18年(行ケ)第10053号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:ティッシュペーパー収納箱事件
キーワード
:進歩性、引用発明の認定の誤り、動機付け
関連条文
:特許法第29条第2項
主文
:特許庁が不服2003-7735号事件についてした審決を取り消す。


1.事件の概要
本件は、「ティッシュペーパー収納箱」に係る特許出願(本件出願)について、本件出願に係る発明(本願補正発明)が、引用例1に記載された発明(引用例1 発明)及び引用例2に記載された発明(引用例2発明)に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとして、拒絶審決がなされたのに対して、原告がその審 決の取り消しを求めた事案である。


2.争点及び判決の要旨
(1) 争点
審決は、本願補正発明と引用例1発明との間に、相違点2「本願補正発明は、上側係止片と下側係止片とによって各屈折片側に食い込む係止部(係止部の最奥部 が相互に押し合うもの)が形成されるように構成し、前記両屈折片を起立させたときに、前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み前記各係止部の最奥 部が相互に接触して係止されるように構成し、前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が、92°~120°であるのに対して、 引用例1発明は、上側係止片と下側係止片とによって各屈折片側に食い込まない係止部(係止部の最奥部が相互に押し合わないもの)が形成されるように構成さ れ、前記両屈折片を起立させたときに、前記各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込まないで、前記各係止部の最奥部が相互に接触して係止されるように構 成され、前記両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が、92°~120°ではなく、90°である点」を認定するとともに、引用例 2発明が、「両屈折片を起立させたときに、係止用くぼみの最奥部で、相互に押し合うという構成を有する」と認定して、「引用例1発明に引用例2発明を適用 すれば、各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込み、両係止部の最奥部相互を繋ぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度を92°~120°に特定するとい う、相違点2に係る本願補正発明の構成をとることが、当業者ならば容易に想到し得たとするものである。」と判断したが、これに対して、引用例2発明の認定 に誤りがあるか、及び、相違点2についての判断に誤りがあるかが争われた。
(2) 判決要旨 
(ア) 引用例2発明の認定に誤りがあるか
裁判所は、「引用例2発明の『係止用凹み』は、本願補正発明の『前記両係止部の最奥部相互をつなぐ仮想線と前記起立折目線との交差角度が、 92°~120°』となる構成を有していないため、単に、係止部において、相互に接触して係止するのみであり、本願補正発明と異なって、係止時に屈折片に たわみが生じないので、係止部の『最奥部』が押し合わず、『各係止部が相手方の係止部に食い込(む)』という構成を有するものではない。」、「引用例2に は、本願補正発明の『両屈折片を起立させたときに、各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込(む)』という構成が記載されていないので、『各押し上げ片 側に食い込む係止用凹みが形成される』ものは記載されていないといわざるを得ず、」と判示し、引用例2発明の認定に誤りがあると判断した。
(イ) 相違点2についての判断に誤りがあるか
裁判所は、「引用例2は、『各押し上げ片側に食い込む係止用凹み(係止用凹みの最奥部で相互に押し合うもの)が形成される』ものではなく、係止用くぼみの 最奥部で、相互に押し合い、各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むという構成を有しないものであって、この点は引用例1発明と同様であるから、そも そも引用例1発明に引用例2発明を適用する動機付けを欠くというほかない。」と判示し、相違点2についての判断に誤りがあると判断した。
また、被告が、「ティッシュペーパー収納箱において、両屈折片を起立させ係止が完了したときに、各係止部がそれぞれ相手方の係止部に食い込むようにする技 術」(乙1技術)が開示された乙1マイクロフィルムをあげて、「引用例1発明において、引用例2発明や本件出願時に当該技術分野において広く知られていた 技術を参考にして、両屈折片を起立させたときに、各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込まない点を、各係止部がそれぞれ相手側の係止部に食い込むよう にすることは、当業者ならば、容易に想到し得た」と主張したのに対して、裁判所は、「引用例1発明と、乙1技術とは、揚支片ないし舌片を掛止させるための 作用においてそもそも異なるのであり、仮に、乙1技術のような、二つの舌片を互いに共辺部の一点で押し合うことによって掛止させる技術が本件出願時に周知 のものであったとしても、この技術をいかにして引用例1発明に適用するのかということ自体、想定することが困難であり、動機付けを欠くというべきであ る。」、「引用例1発明も引用例2発明も、本願補正発明のような、係止部の『最奥部』において、屈折片のたわみにより、相互に押し合う状態を生じさせると いう技術的思想は開示していないのであって、そのような技術的思想の前提もないところで、被告の主張する試行錯誤をすることが、当業者の通常の創作能力の 発揮として設計上当然行うことであるとはいえない。」として、被告の主張を退けた。


3.執筆者のコメント
本判決では、本願補正発明が奏する作用効果の観点から見て、「係止部の『最奥部』において、屈折片のたわみにより、相互に押し合う状態を生じさせるという 技術的思想」に本願補正発明の技術の要部があると判断されていることから、実質的には、この技術の要部全体を含む単一の引用例等でなければ、引用例1発明 に適用する動機付けを欠くと判断されているものと思われる。


(執筆者 山根  政美 )


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