平成18年9月20日 知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10846号
- 審決取消請求事件 -
- 審決取消請求事件 -
- 事件名
- :生理用ナプキン事件
- キーワード
- :新規性,進歩性,阻害要因
- 関連条文
- :実用新案法第3条第1,2項
- 主文
- :特許庁が無効2005-80029号事件についてした審決を取り消す。
1.事件の概要
被告は,名称を「生理用ナプキン」とする考案につき平成4年8月5日実用新案登録を出願し,平成11年12月3日に設定登録された。原告は,平成17年1月28日,本件実用新案登録につき無効審判を請求した(無効2005-80029号事件)。その審理中に訂正請求があったものの,平成17年11月10日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決があった。
2.本件実用新案

実用新案登録請求の範囲記載の考案は,次のとおりである。
A:透液性シート1と,不透液性シート2と,両シート間に介装される排液を吸収する吸収体3とを備えた生理用ナプキンにおいて,
B:前記吸収体3の幅方向および長手方向中間の排液部分に,吸収体3より幅狭でかつ短長の使用面側に凸状に突出する中高部Dを形成するとともに,
C:前記中高部Dの幅方向両側部分において長手方向に沿って透液性シート1をヒートシールによる圧着固定線33をもって非中高部に対して圧着固定して,前記中高部Dをその幅方向および長手方向に固定し,
D:前記圧着固定線33の長手方向区間と同じか長い区間にわたって,各圧着固定線33の幅方向外側において,弾性伸縮部材4をそれぞれ設け,ナプキンの両側部を使用時において長手方向に沿って収縮するように構成した

E:ことを特徴とする生理用ナプキン。
効果:生理用ナプキンを股間部において良好にフィットさせることができる。さらに,吸収体の使用面側に凸状に突出する中高部を形成し,その中高部のズレを防止しながら,中高部の形状保持に優れたものを得ることができる。
3.判事事項
(1) |
新規性違反について |
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(2) |
進歩性違反について ![]() |
(3) |
被告主張の阻害要因について 被告は,引用考案1と引用考案2は中高部の形成時点が全く異なり,引用考案1に引用考案2を適用する動機付けがなく,しかも,引用考案2を引用考案1に適用する場合には,引用考案1の目的,つまり,「新しい材料」や「付加的な吸収性材料」を使用しないで,使用時に圧縮線10,11の間に隆起14を生成させる目的を達成できないものとなるから,適用に阻害要因があると主張する。 しかし,引用例1の「隆起14」は,使用時において形成され,引用例2の「上部吸収材3」は製造時に形成されるものではあるが,吸収体より幅狭でかつ短長の凸状に使用面側に突出する中高部を形成するという共通の構造を有し,また,それによって,使用者の身体とより密に接触して,漏れの危険がより小さくなるようにし,かつ,吸収性に優れたナプキンを得るという共通課題・作用効果を有するから,引用考案1のものに引用考案2を適用することに動機付けがある。また,引用考案1の目的として,「新しい材料」や「付加的な吸収性材料」を使用しないことがあるとしても,引用考案1の「隆起14」は,使用時に使用者の腿12と13の圧力下で形成され,それを構成する部材は吸収要素3の一部であって,その材料は製造時に既に存在するから,製品の状態(製造時)において「新しい材料」や「付加的な吸収性材料」を新たに必要とするものではなく,引用考案1の上記目的に反するとまでは認められない。したがって,被告の阻害要因があるとの主張は採用することができない。 |
4.執筆者のコメント
被告の阻害要因の主張に対して,裁判所は,上述のように「新しい材料」等を使用しないという引用考案1の目的に反するような引用例1と2の組合せについて,考案にかかる生理用ナプキンの目的をより一般的にとらえた上で,共通の課題・作用効果があると判断した。しかしながら,個別の考案・発明の特徴的な構成とそれに基づく特有の効果を鑑みることなく,判決のように課題・作用効果を拡張してしまうと,先行技術の組合せの許容度が著しく緩和され,およそ阻害要因というものが認められなくなり,権利者に不当な制限を課するおそれがある。よって,かかる課題・作用効果を一般的なものにまで過度に拡大解釈するのは慎むべきであると考える。
(執筆者 永井 豊 )