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三会共催「企業力向上セミナー2023」報告書

日  時 令和5年12月14日(木)午後1時~4時30分
場  所 大阪弁護士会館10階会議室1001・1002/ウェブ配信(Zoom)
主  催 日本弁理士会関西会・日本公認会計士協会近畿会・大阪弁護士会(三会)
共  催 NPO法人近畿バイオインダストリー振興会議
テーマ 企業力向上セミナー2023
「三会協働事業20周年記念事業 関西におけるバイオビジネスの新潮流」
講  師 《第1部》基調講演
   NPO法人近畿バイオインダストリー振興会議 理事長 坂田 恒昭 氏
《第2部》士業からの話題提供
   弁理士 駒谷 剛志 氏
   公認会計士 安原 徹 氏
   弁護士 岩谷 敏昭 氏
《第3部》三会鼎談 (登壇者)
   弁理士 八木 敏安 氏
   公認会計士 桂 真理子 氏
   弁護士 小池 眞一 氏
受講者 一般及び士業 計132名(会場参加:35名、ウェブ参加:97名)
内  容  はじめに、主催者(三会)を代表して大阪弁護士会 副会長 杉山 洋史 氏より開会の挨拶があった。

《第1部》基調講演
 坂田氏より「産学におけるヘルスケアの最近の動向 ~オープンイノベーションによる日本発画期的新薬・創薬技術を目指して~」を演題として、日本の創薬技術に関して課題と産官学の取り組みの現状についてご講演があった。現在の創薬はヒトゲノムの情報を利用して新薬を開発する「新時代」に入っており、このような新薬の一つとして新型コロナウイルス感染症に対するワクチンとして関心を集めたmRNAワクチンがあることが紹介された。このワクチン開発において日本の科学技術力の低下の深刻さが明らかとなったこと、現在の日本のバイオベンチャー・スタートアップの多くは知財戦略、財務戦略、法務戦略を欠いており、良い研究を支援していく体制が十分とはいえないこと、などの課題があることが説明された。そして、科学技術の競争力を向上するためには、オープンイノベーションの創生、即ち、自社以外が持つ技術や知識を活用した革新の創出が肝要であるとの見解が示された。この中で、オープンイノベーションの創生には多様な技術分野のスペシャリストのコラボレーションが不可欠であり、スペシャリストを統合する力、イノベーションをデザインする発想、人と人のコミュニケーションをスムースに進める人間力、人と人とのネットワークを構築する力を持つ人材及びその育成が大切であることが強調された。

《第2部》士業からの話題提供
 まず、駒谷弁理士より「日本のバイオベンチャー・スタートアップに欠けがちな知財ポートフォリオ戦略」を演題として、日本のバイオベンチャー・スタートアップの知財周りの問題を解決するヒントについてご講演があった。日本のバイオベンチャー・スタートアップは、知財戦略を後回しにする傾向があるが、研究結果の社会実装を行うのであれば研究開発の最初から知財DD(デューデリジェンス)等の知財戦略のベースとしての経営戦略を考えるべきである等、現在の問題とその解決方法が示された。現在のバイオベンチャーでは知財戦略家がチームに入っていないことが多いが、研究開発の開始時から知財戦略家がチームに参加できる体制整備が必要であり、多種多様な専門家の集団からなる「良いチーム」作りの重要性を考えることが大切であることを強調された。
 次に、安原公認会計士より「バイオベンチャー特有の資本政策」を演題として、ITベンチャー・スタートアップと比較したバイオベンチャー特有の資本政策についてご講演があった。バイオベンチャーとITベンチャーの相違点として、ITベンチャーは大口株主がいるのに対し、バイオベンチャーは大口株主が存在しないことが多い点、及び、バイオベンチャー金融機関借入による資本調達が主体であるのに対し、バイオベンチャーでは金融機関借入が無く株式発行による資金調達が主体であることが多い点などを挙げ、バイオベンチャーは開発に干渉する支配株主がなく小規模個人株主が主体であり、これにより、長期的安定的な開発が可能となっていることが説明された。バイオベンチャーに対する日本の弁護士・弁理士・公認会計士の当面の対応は、倫理面に目を配りつつ、グローバルを見据えた知財・法務戦略、資金調達・会計監査、さらには成長戦略としてのM&A・組織再編等それぞれの専門分野を生かして協力しつつ発展を見守ることとなるとの見解が示された。
 最後に、岩谷弁護士より「バイオシーズの社会実装を支援するために知っておきたいこと」を演題として、主に大阪大学の産学連携を進める制度(共同研究講座、協働研究所)についての説明があった。共同研究講座は、企業等から資金や研究者を受け入れ、大学内に大学研究者と企業研究者で構成される講座を設け、大学と企業が共同研究を行う制度である。協働研究所は、企業の研究所を大学内に誘致し、企業の研究を大学に持ち込み可能とする制度である。共同研究講座は大学主導であり、協働研究所は企業主導である。学生は、大学に居ながら企業の研究所の活動に参加できるインターンシップ・オン・キャンパス制度を利用することが可能であり、学術的視点からの研究指導だけではなく、事業化視点の研究指導を大学内で受けることができる。現在の大学知財マネジメントの多くは知財関連費用の回収を目的としているのが実態であるが、今後は、大学研究成果の社会実装機会の最大化、及び、資金の好循環を最優先課題とし、この課題が解決されるよう知財ガバナンス改革が必要であるだろうとの見解が示された。

《第3部》三会鼎談
 八木弁理士、桂公認会計士、小池弁護士により、講演を受けて今後の三士業の協働についてディスカッションがなされた。
 八木氏から、今回のセミナーで、バイオベンチャーに限らず、知財は他の事業と繋がったものであり、他の事業から切り離して考えるべきものではないことがよく理解できたと、講演についての感想が述べられた。また、弁理士には、深くなくてもよいので、研究開発を社会実装に進展させるための知識を持つことが要求されるだろうと意見が述べられた。
 桂氏から、国内の公認会計士は約4万人で、そのうち約2万人は大企業の監査を行っているが、ベンチャー支援の会計士が徐々に増えつつあり、ベンチャー社内から或いは社外から支援を行っていることが紹介された。
 小池氏からは、日本の経済・産業の発達のためには多種多様な専門家のチームが必要であり、士業の枠を超えた繋がりが重要となってくるが、三会の活動は、他士業と気軽に関わり合い、士業の枠を超えたネットワークを構築できる機会を提供していると紹介された。

 締めに、主催者(三会)を代表して日本弁理士会関西会 副会長 田中 成幸 氏より閉会の挨拶があった。セミナーの司会は、知財普及・支援委員会第三事業部会 谷村 敏博 会員が務めた。

 セミナー後、20周年を記念した新たな試みとして、大阪弁護士会館会議室で三士業合同相談会(無料)が行われた。相談内容については開示できないが、概ね良好に終了した。

《開会挨拶》 杉山 氏
《第1部》 坂田 氏
《第2部》 駒谷 氏
《第2部》 安原 氏
《第2部》 岩谷 氏
《第3部》 桂氏、八木氏、小池氏
《閉会挨拶》 田中氏
セミナーの様子(会場)

以 上
(報告者:知財普及・支援委員会第三事業部会 石井里依子)

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