以下の5つの流れでご講義いただいた。
1.海外で商標を保護するためには
出願前の確認事項として、商標の使用態様、他人の商標権の有無の他、その国でネガティブな意味がないか等の事前確認が重要。同一調査は日本でも可能だが、類否判断は各国ごとに異なるため、現地代理人に依頼したほうがよい。
2.出願方法(直接出願かマドプロか)
マドプロの主なメリットとしては、出願する国が多いほど費用が割安、期限管理が楽、対象国の拡張が容易であることが挙げられる。マドプロの主なデメリットとしては、基礎出願/登録が必須であり商標に厳格な同一性が求められること、指定商品/役務が基礎出願/登録に縛られ拡張できないこと、セントラルアタックなどが挙げられる。
3.中国の商標制度
出願件数が膨大なため、先行商標と類似するという拒絶理由が多い。審査段階で反論の機会がなく、いきなり拒絶査定になる。不服審判は高額且つ請求期間が30日と短いため、事前調査をして類似先行商標があれば、商標を変更するか、先行商標に不使用取消審判をかけることも検討。日本と比べて外観重視のため、共通する構成文字数が多いと、称呼が異なっていても類似と判断される傾向がある。図形商標の類似範囲が日本より広く、似たようなイメージだと拒絶される傾向がある。指定商品・役務を補正する機会は原則ないものと考えて出願に臨むべき。悪意・冒認出願が非常に多いため、近年規制が強化され、冒認出願の取消のハードルがかなり下がった。カラー商標で登録し、異なる色で商標を使用していると、不使用とみなされるリスクがあるので、モノクロ商標で出願してカラーで使用したほうがよい。
4.米国の商標制度
日本と異なり使用主義。商標権の種類として、①使用により発生する商標権、②米国商標局に登録することで発生する商標権、③州内でのみ使用・登録する商標権がある。①の調査も必要なため、米国における商標調査費用は高額になるが、侵害訴訟の損害賠償のリスクがあるため、事前調査をしておくことが望ましい。米国での商標出願には、出願の基礎が必要であり、基礎には、「使用に基づく出願」、「使用意思に基づく出願」、「マドプロ」などがある。どのルートを選んでもいつかは使用宣誓する必要があるので、現実に米国で使用又は使用意思のある商品・役務だけを願書に記載すべき。商品・役務の審査は、審査官による差が大きく、同一審査官でも案件ごとに認定が異なることがある。
5.欧州の商標制度
欧州連合加盟国をカバーする欧州商標の出願登録が可能だが、英国、スイスは非加盟。各国への直接出願と併用可能。識別力の判断は厳格であるため、単なる商品の説明とみなされる商標は拒絶されることが多い。先行商標との抵触については無審査。先行商標権者に後願商標のサーチレポートが送付されてくるが、参考程度なので、後願を排除したければ自らウォッチングすることが必要。同一・類似商標については、当事者の異議申立により対応。一か国だけの使用では不使用取消を免れないので、重要な国については、直接出願も検討すべき。
以上
(執筆者:関西会 知財普及・支援委員会 大角 菜穂子)
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