訴訟について |
- Q.特許・実用新案・意匠・商標に関して提起される訴訟について説明して下さい。
- A.
特許・実用新案・意匠・商標に関して提起される訴訟は大きく次の2つに分かれます。
(1)審決等取消訴訟
特許庁審判官のした審決・決定の取消を求める行政訴訟で、知的財産高等裁判所(東京)だけが取扱っている訴訟です。そのなかには、1.取消決定・審決に対する訴訟、2.登録異議申立書・審判・再審の請求書の却下決定に対する訴訟が含まれます。代表的なものをあげると、特許等の出願が特許庁で拒絶査定になり、拒絶査定不服審判を請求したが、拒絶審決を受けたとき、無効審判の審決に対し不服があるとき、登録異議申立の結果、登録取消決定を受けたとき等です。この訴訟では、弁理士が単独で代理人となることができます。
(2)侵害訴訟
特許権者等が、第三者を相手取って、特許権等を侵害したとして、管轄地方裁判所に提起する訴訟です。管轄権をもつのは、被告の住所地・不法行為地等の地方裁判所、又は東京地方裁判所(東日本)、若しくは大阪地方裁判所(西日本)です。訴訟では現に行われている侵害のほか、将来生ずるおそれのある侵害の差止、それに侵害行為によって生じた損害の賠償を請求します。この訴訟では、弁理士は弁護士と共同し、代理人または補佐人となることができます。
その他、差止等請求権不存在確認訴訟等があります。
|
知的財産権の侵害について |
- Q.どのような場合に特許権の侵害となりますか?
- A.
特許権者以外の第三者が実施権(ライセンス)などの権利なしに事業として特許発明を実施している場合に、特許権の侵害となります。個人的又は家庭内での特許発明の実施は、事業としての実施とは言えず、特許権の侵害とはなりません。
第三者が実施している物又は方法が特許発明該当するか否かは、特許公報における【特許請求の範囲】の記載に基づいて判断されます。【特許請求の範囲】には、1つ又は複数の請求項が記載されています。第三者が実施している物(以下、「対象物」という)が、各請求項において文言で表された構成要件を全て充足する場合は、特許権の侵害(この侵害態様を「直接侵害」といいます)となります。構成要件の一部でも充足しない場合は、特許権の侵害とは原則なりません。
例えば、1つの請求項に記載された特許発明がAとBとCの3つの構成要件を備えている場合において、対象物がAとBとCを備えていれば特許権の侵害となり、AとBしか備えていなければ特許権の侵害とはなりません。対象物がAとBとCの3つの構成要件を備えている限りは、さらにDを備えていても特許権の侵害となります。
なお、特許発明の構成要件を全て充足しない場合であっても、直接侵害を誘発する可能性が高い行為は、「間接侵害」となる場合があります。詳しくは、間接侵害についての回答をご参照ください。
また、均等論という考え方があり、構成要件の一部を充足しない場合でも例外的に特許権の侵害となる場合があります。つまり、少し構成が異なる場合でも特許権の侵害となる場合があります。詳しくは、均等論についての回答をご参照ください。
特許権を侵害しているか否かの判断は、高度な専門知識を必要としますので、弁理士にご相談ください。
|
均等論について |
- Q.特許権侵害の判断において適用される均等論とは何ですか。
- A.
均等論とは、被侵害品が特許発明と同じでなくても、均等と評価できる場合には特許権の効力が及ぶとする考え方です。
特許権の内容及び範囲は、特許公報における【特許請求の範囲】の記載に基づいて判断されます。(特許権の内容及び範囲は、公開・公表特許公報ではなく、必ず特許公報を確認してください。)
原則として、特許権の範囲に入るか否かの判断の対象となる製品が、【特許請求の範囲】に記載されている構成要素をすべて含んでいれば、その製品は特許権の範囲に含まれる、すなわち特許権侵害と判断されます。一方、【特許請求の範囲】に記載された構成中にその製品と異なる部分が存在する場合、その製品は特許権の範囲に含まれないことになります(非侵害)。
しかし、前述のようにその製品が文言上では【特許請求の範囲】の中に入らない場合であっても、後述の5つの要件を満たせば、その製品は特許発明と均等である(均等論が適用できる)と判断されて、特許権の範囲のものである、すなわち侵害と判断されます。
ここで説明する均等論は、平成10年2月24日の最高裁判決(無限摺動用ボールスプライン軸受け事件上告審判決)によるものですが、他の事例にも広く適用されます。
上述の均等論を適用するためには5つの要件を満たす必要がありますが、その5つの要件とは、【特許請求の範囲】に記載された構成中に判断の対象となる製品と相違する部分が存在する場合に、
1. その相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと(非本質的部分)
2. その相違部分をその製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同じ作用効果を奏すること(置換可能性)
3. その製品の製造時点において、当業者がそのような置き換えを容易に想到できたものであること(侵害時の置換容易性)
4. その製品が、特許発明の特許出願時点における公知技術と同一ではなく、また当業者がその公知技術から出願時に容易に推考できたものではないこと(出願時公知技術からの容易推考困難性)
5. その製品が発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もないこと(意識的除外)
です。これら5つの要件を満たせば、その製品は、【特許請求の範囲】に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に入るものと判断されます。方法の発明についても同様に判断されます。
|
- Q.特許製品の一部を変更すれば、特許権の侵害にはならないのでしょうか?
- A.
特許権の侵害は、特許公報の特許請求の範囲に記載された構成要素のすべてを充足しているか否かで判断されます。従って、特許製品の一部を変更しても、特許請求の範囲に記載された構成要素を具備している場合には特許権の侵害になります。また、特許請求の範囲に記載された構成要素の一部が相違する場合であっても、均等侵害に該当することがあります。詳細は弁理士にご相談ください。なお、均等侵害については、Q「特許権侵害の判断において適用される均等論とは何ですか。」をご参照下さい。
|
警告書について |
- Q.商標権侵害の警告書をうけた場合にはどのように対処すればよいでしょうか。
- A.
最も安全な対処法は、できるだけ早期に専門の弁理士・弁護士に相談することです。
しかし、最終的には専門家の判断を仰ぐとしても、それまでに解決しておくとよい事項もあります。また、明らかに言いがかりである場合には専門家に相談するまでもない場合もあり得ます。ここでは弁理士・弁護士に相談する前の段階における対処について説明します。
1.警告書に対する回答期限を確認します。回答期限に法的意味があるわけではありません。しかし、相手方の心証を害さないためにも、回答期限を守るようにスケジュールを決定すべきです。警告書の内容を検討した結果、例え、相手方の主張に無理がある場合でも、放置したりせず、その旨を回答期限内に回答しておくべきでしょう。
2.侵害していると指摘された製品および商標を確認します。自社が製造・販売等をしている製品でなければ、そもそも商標権の侵害とはならないからです。ただし、すでに製造を中止している製品であっても、過去の侵害に対して損害賠償を請求されることはあり得るので、現在製造していないからといって安心はできません。
3.警告書に添付されている公報から、商標権の指定商品(または指定役務)と商標を確認します。そして、侵害と指摘された自社製品が、当該指定商品または当該指定商品に類似する商品であるか否かを確認します。例え、商標権にかかる商標が自社製品の商標と同一の商標であっても、自社製品が指定商品または指定商品に類似する商品に含まれなければ商標権の侵害とはならないからです。
4.商標権に係る商標と、自社製品に使用している商標とを比較してみて、似ているかどうか確認します。商標権の侵害に該当するためには、互いの商標が同一または類似する必要があります。まるっきり似ていない商標について警告される場合もあり得るので、一応の確認はしておくのがよいでしょう。ただし、この判断は容易ではないので、安易に結論を出さず、専門家に相談するべきです。なお、特許庁に判断してもらう(判定制度)ことも可能です。
5.自社製品の商標について特別の事情がないか確認します。例えば、自社製品に当該商標を使用したのが、商標権にかかる出願の出願日より前であるとか、自社製品について商標の使用許諾を受けているとか、当該商標権について無効理由を発見している等です。これらの事情についても、専門家に相談する際に、報告するとよいでしょう。
|
- Q.競合会社から特許権侵害の警告を内容証明郵便で受けた場合、どのように対処すればいいでしょうか。
- A.
弁理士(特許事務所)に相談されるのが好ましいと考えますが、この場合、次の手順で対処方法を考える必要があります。
(1)相手方から内容証明郵便とは別便で特許公報が送られてくる場合もありますが、送られてこない場合もあります。後者の場合でも、警告書には特許番号が掲載されているはずですから、特許公報を取り寄せ、内容を確認する必要があります。
(2)特許公報だけでなく、特許原簿の謄本を取り寄せ、権利が有効に存続しているかどうか、権利者が通告人と一致しているかどうか等の確認を行います。特許公報や原簿謄本は、社団法人発明協会に依頼すれば、取り寄せることができます。
(3)特許公報に掲載された「特許請求の範囲」の記載が特許発明の技術的範囲(権利範囲)を示しておりますので、その範囲に、警告の対象となったものが含まれているかどうかを判断しなければなりません。含まれていないことが明らかな場合には、特許発明の技術的範囲に属さない理由を記載した回答書を作成し、相手方に送付することになるでしょう。しかしながら、技術的範囲に属する疑いが濃厚な場合は、(a)対象技術の実施を断念する、(b)特許発明に抵触しないように技術を変更する、(c)特許に無効理由がないかどうかを調査検討する等の選択肢が考えられます。ただし、技術的範囲に属するかどうかの判断は、特許庁に備えられている出願書類(包袋)を精査する必要もあり、弁理士に鑑定等を依頼されるのが好ましいと考えます。
(4)前記(a)及び(b)の場合、それ以後の差止請求は回避できますが、権利者から過去の侵害について損害賠償請求されることがありますので、その場合は弁護士を介して相手方と交渉することになるでしょう。多くの弁理士は弁護士と業務提携をしておりますので、弁理士に依頼されれば自ら弁護士を捜す手間を省略できます。
(5)なお、特許権を侵害していないにも関わらず、相手方が取引先等に警告書を送付する等、営業妨害をしているときは、不正競争であるとして、相手方にそのような行為を中止するよう要求することもできます。
|
- Q.他社から、自社製品がその会社の特許権を侵害しているとの内容の警告書が送付されてきました。そこで、その会社の特許発明と自社製品を比較して侵害の有無を判断しようと思っていますが、その判断基準について教えてください。
- A.
他社の特許発明と自社製品とを比較する際の判断基準は、「自社製品が他社特許発明の技術的範囲に属するか否か」となります。そして、特許発明の技術的範囲は、その「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められると規定されています(特許法第70条第1項)。
警告書には、相手方の特許発明の内容が記載された特許公報が添付又は特許番号が記載されている筈です。特許公報を入手し、「特許請求の範囲」の欄を参照して、請求項に記載されている特許発明が自社製品と一致しているかどうか検討する必要があります。そして、自社製品が、特許発明の構成要素を、すべて備えている場合に、自社製品は他社特許発明の技術的範囲に属する、即ち、侵害していると判断されます。
ただし、ここに示した例はあくまでも原則論です。そして、特許権の侵害の判断は非常に難しく、かつビジネス上重要な判断ですので、自己の判断のみに基づいて対応を決定するのではなく、専門の弁理士に相談するようにしてください。
|
- Q.自分の特許権を他人が無断で実施しているのを見つけました。どのような対抗手段がありますか。
- A.
他人の特許権を実施権(ライセンス)などの権利なしに事業として実施する行為は、特許権の侵害となります。対抗処置としては、訴訟を提起して、(1)侵害行為の停止を請求したり、(2)損害賠償を請求したりすることができます。訴訟の提起前に侵害者に警告書を送り、それでも解決しない場合に訴訟を提起することが一般的です。なお、言うまでもありませんが、警告書を送付する前に、本当に特許権が侵害されているか否かを十分確認する必要があります。
警告書では、侵害された特許番号と侵害品名や侵害行為(製造、販売等)を特定して、侵害行為の停止を要求します。弁理士が作成した警告書が効果的です。警告だけでは法律的効果は生じませんが、その後の侵害行為に対して損害賠償の請求をしやすくなります。なお、警告に対して侵害者が応じる場合、侵害者が事業継続を希望し特許権の実施許諾を求めてくる場合もあります。
損害賠償請求は、侵害を知ってから3年を経過したときは請求することができません。このような場合、不当利得返還請求を行うことができる場合があります。不当利得返還請求では、侵害によって受けた自分の損失を限度として利得の返還を請求することができます。ただし、10年を経過した分については時効により請求することができません。さらに、故意や過失によって業務上の信用が害されたときには、侵害された者の信用を回復する措置(例えば新聞への謝罪広告の掲載)を侵害者に要求することができます。
なお、特許権の設定登録前(出願はしたけど権利化前)であっても、出願公開の後(公開特許公報の発行後)であれば、発明の内容を記載した書面(警告書)を侵害者に郵送等によって提示することで、特許権の設定登録後に、警告から設定登録までの期間の侵害行為に対して補償金を請求することができます。
|
侵害の判断について |
- Q.ある商店の前を通りかかったところ、私の特許発明と同じような製品が販売されていました。じっくり見ると若干異なる点もあります。この製品が私の特許権を侵害しているかどうか、どのようにして判断をすればよいのでしょうか。
- A.
自分の特許発明と相違点がある場合は、原則として特許権侵害になりませんが、相違点があっても例外的に特許発明と均等な物として特許権侵害となる場合があります。この場合に、特許権侵害となるか否かは、以下に示す5要件を用いて判断します。全ての要件を満たす場合に、特許権侵害となります。判断に迷わる場合は弁理士までご相談ください。
1. 特許発明において製品との相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと(非本質的部分)
2. その相違部分をその製品におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達成することができ、同じ作用効果を奏すること(置換可能性)
3. その製品の製造時点において、当業者がそのような置き換えを容易に想到できたものであること(侵害時の置換容易性)
4. その製品が、特許発明の特許出願時点における公知技術と同一ではなく、また当業者がその公知技術から出願時に容易に推考できたものではないこと(出願時公知技術からの容易推考困難性)
5. その製品が発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情もないこと(意識的除外)
|
水際取締りについて |
- Q.商標権を侵害する商品が輸入されようとしています。何か対策を取ることができますか?
- A.
輸入後、裁判所で差止及び損害賠償の訴訟をすることも可能ですが、税関に輸入差止の申請をすることも可能です。
すなわち、関税法69条の11第1項第9号では、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権等を侵害する物品の輸入差止を認めています。また、関税法69条の11第1項第10号では、不正競争防止法第2条第1項第1号~第3号に規定されている不正競争行為を組成する物品の輸入差止を認めています。弁理士は、これらの輸入差止の代理人になることができます。
|
登録前の係争について |
- Q.ある発明について特許出願をしましたが特許権が発生する前に、出願した発明を利用した製品を他社が販売し始めました。何か対策を取ることができますか?
- A.
特許権が発生していない以上、特許権に基づく差止請求(製品の販売等を差し止める)や損害賠償請求等の権利行使はできません。
しかし、特許権が発生していない場合であっても、認められる対抗手段があります。
この発明の特許出願について特許公開公報がすでに発行され、出願公開がされている場合は、当該他社に対して、一定の条件を満たした警告をしておくことも有効です。この警告によっても当該他社の販売行為等を差し止めることはできませんが、この発明の実施料に相当する金額の補償金を、特許権が発生した後に、請求することが可能となります。逆に言えば、この警告を行わないと一部例外を除いて当該補償金を請求することができません。
したがって、この警告を受けた場合、当該他社は自己の製品の販売を継続すると、「特許権が発生した後に、補償金を請求されるだけでなく、特許権侵害で訴えられるかもしれない」と考え、問題の製品の販売を中止してくれるかもしれません(特許法第65条参照)。
なお、この警告を行うためには、該当する特許出願が出願公開されていなければなりません。そこで、未だ該当する特許出願が出願公開されていないのであれば、特許庁に対して、早期に出願公開をするように出願公開の請求(特許法第64条の2)を行うこともできます。
また、特許権が発生していない場合の対抗手段として、例えば、不正競争防止法に規定されている差止請求(第4条)や損害賠償請求(第5条)は認められる場合があります。
不正競争防止法は、不正競争に対して権利行使を認める一方で、どのような行為が不正競争に該当するかが列挙されています(第2条第1項第1号~第15号)。例えば、特許出願した発明が製品の形態に関する発明である場合、当該他社の行為は、同条同項第3号に該当する可能性があります。すなわち、当該他社の行為が不正競争行為である場合には、当該他社の行為に対する対抗手段として、不正競争防止法に基づく差止請求や損害賠償請求をすることができます。
以上のような対抗手段の他に、特許権を早期に成立させるための付随的手段として、特許庁に対して、特許出願の審査を開始させるための出願審査の請求(特許法第48条の3)を行ったり、あるいは、当該特許出願の審査を優先して行ってもらうための優先審査の請求(特許法第48条の6)を行ったりすることも有効です。
|