平成19年2月8日 大阪地裁
- 平成17年(ワ)第3638号 特許権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件(甲事件)
平成17年(ワ)第9357号 売掛代金等請求事件(乙事件) -
- 平成17年(ワ)第3638号 特許権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件(甲事件)
平成17年(ワ)第9357号 売掛代金等請求事件(乙事件) -
- 事件名
- :印鑑基材事件
- キーワード
- :技術的範囲,明細書の記載,無効理由(以下,略)
- 関連条文
- :特許法70条1項及び2項,不正競争防止法2条1項14号,不正競争防止法3条1項,民法709条,民法715条,
- 主文
- :甲事件原告の別紙物件目録記載の装飾印鑑の製造,譲渡,貸渡し並びに譲渡及び貸渡しの申出につき,甲事件被告P1が特許番号第3630660号の特許権の基づく差止請求権を有しないことを確認する(以下,省略)。
1.事件の概要(甲事件。乙事件については,省略。)
本件は,原告が,ア)被告P1に対し,装飾印鑑の製造販売行為について特許権に基づく差止請求権が存在しないことの確認を求めるとともに,イ)被告P1及 び被告株式会社クローバー365の従業員が,原告の取引先に対し,上記印鑑の製造販売が上記特許権を侵害する旨を告知・流布した行為について不正競争防止 法2条1項14号の虚偽の事実の告知・流布,又は不法行為(民法709条ないし民法715条)に相当するとして,被告P1に対しては,不正競争防止法3条 1項に基づく前記告知・流布の差し止め及び民法709条に基づく損害賠償を求め,被告株式会社クローバー365に対しては,民法715条に基づく損害賠償 を求めた事案である。
2.争点
(1) |
原告商品が本件発明(1ないし3)の技術的範囲に属するか否か。 |
(2) |
原告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か。 (以下,略) |
3.判決の要旨
(1) |
原告商品の本件発明の技術的範囲の属否
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||||||||||||
(2) |
原告方法の本件発明4の技術的範囲の属否 原告方法の構成k2は,「シート体を巻き付けた棒状体を,筒体の内周面とシート体を巻き付けた棒状体を筒体の内周面とシート体との間に合成樹脂体が介在さ れるように筒体の中心部に挿入する工程」であり,構成要件Kの「シート体を前記筒体の内周面と合成樹脂間に介挿入する」ものではない。 この点,被告らは,「合成樹脂」とは接着剤であると主張するが,「合成樹脂」を接着剤と考えると接着剤は,筒体内に入れられる前に乾燥固化してしまうた め,「有底状の透明な筒体内に満了に満たない量の透明な液状の合成樹脂を注入」(構成要件J)するものではなく,また,二次樹脂注入工程により注入された 合成樹脂と共に筒体内において固化工程を経て固化されるもの(構成要件K)ではないから,構成要件J,Mを充足しないこととなってしまうから,かかる解釈 をとることはできない。 したがって,原告方法は,本件発明4の技術的範囲に属さない。 |
4.執筆者のコメント
(1) |
裁判所は,被告の主張に沿って,合成樹脂体,又は,棒状体及び接着剤が「芯材」(構成要件C)に相当する と仮定した場合について,原告商品の構成が他の構成要件(「浸透」「介挿入」及び「合成樹脂」等)を充足するか否かにつき検討し,技術的範囲に属さない旨 の結論を導いている。また,裁判所は,原告商品が本件発明出願前に頒布された2つの公報記載の発明から容易に発明できるものであり,仮に,原告商品が本件 発明の技術的範囲に属すると解した場合には,本件発明が無効原因を有することになるから,技術的範囲に属するとの解釈ではできないという原告の主張を認容 している。 上記2つの判断は,請求項の文言を国語的意義に留まらず,明細書の記載,各請求項間の文言の整合性及び本件発明の技術的意義を丁寧に検討した上でなされた ものであり,結論及び理由付けともに妥当である。特に,後者の判断については,今後の侵害訴訟において充足性を争う当事者の防御方法として参考になるもの と思われる。 |
(2) |
なお,被告らから,構成要件Bの「注入された」という文言は,単に注入され終わった結果,発明対象である 印鑑基材としては固化している状態の合成樹脂を説明しているにすぎず,製法によって物の特定をしたいわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレーム手法による 特定であるから,物の構成要件自体の解釈に影響を及ぼすものではないとの主張もなされた。しかし,裁判所は,仮に,被告らの主張に従ったとしても,原告商 品においては,棒状体と接着剤は,シート体に浸透して一体化し透明化するものでないため,「芯材」と解することはできない旨判示し,被告のかかる主張の適 否の判断を回避している。 本件においては,被告らの上記主張の適否を判断することは,技術的範囲の属否の判断に必要な事項と考えられない以上,かかる点からも裁判所の判断は,妥当である。 |
(執筆者 白木 裕一 )