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平成19年1月16日 大阪地裁 平成18年(ワ)第1538号
- 特許権侵害差止等請求事件 -

事件名
:光電センサ事件
キーワード
:特許無効の抗弁、特許の無効
関連条文
:特許法104条の3Ⅰ、同第29条Ⅱ
主文
:原告らの請求をいずれも棄却する。


1.事案の概要
本件は、発明の名称を「電子機器ユニット,電子機器及および結線構造」とする特許権を有する原告が、被告による「光電センサ」の製造販売が上記特許権の侵 害にあたると主張して、同特許権に基づき被告製品の製造販売等の差止め,廃棄及び損害賠償を請求した事案である。


2.争点及び判決の要旨
争点は、本件特許発明は引用発明、引用例2及び引用例3に記載された各発明から当業者が容易に想到できたものであって、進歩性に欠け、特許無効審判により無効にされるべきものであり,同特許権に基づく権利行使は許されないかどうかである。
裁判所は、本件特許発明と引用発明との相違点として、(1)本件特許発明の第1コネクタは「一対の」 ,すなわち2個で1組となるコネクタであるのに対して,引用発明には1個の増設コネクタ45に対応する外部コネクタ43が4個設けられており 2個で1組という構成を有しない点、(2)ケース本体及びカバーの構成は,本件特許発明が一対の壁面を有するケース本体であるのに対し,引用発明において は,ケース本体(ウエケース)及びカバー(シタケース)のそれぞれが一つの壁面を有する点、(3)接続用の開口の構成は,本件特許発明がケース本体におけ る壁面に形成され一対の第1コネクタが近接して臨む一対の接続用の開口であるのに対し,引用発明では,ケース本体(ウエケース)における壁面に増設コネク タが近接して臨む一つの接続用の開口が形成され,カバー(シタケース)における壁面に外部コネクタが近接して臨む4つの接続用の開口が形成されている点を 挙げ、これら3点につき以下のように判示した。
(1) 4か所に外部コネクタを設けた引用発明の構成を1か所にのみ外部コネクタを設ける構成に変更することは,当業 者が適宜選択し得る設計事項であるというべきである。そして,このようにした場合,増設コネクタと外部コネクタは,併せて一対の,すなわち2個で1組のコ ネクタとなり,本件特許発明の「一対の第1コネクタ (構成要件A)と同一の構成となることが明らかである。
(2) 引用例2には,引用発明との相違点である本件特許発明の構成要件Bの構成( 該一対の第1コネクタ付の前記配線基板が挿入される基板挿入用の開口を有すると共に前記配線基板に略平行な一対の壁面を有する箱状のケース本体と )を備える発明が記載されていることが認められる。引用発明と引用例2に記載された発明は,いずれもケーブルの配線を要することなくコネクタにより他のユ ニットと直接接続することを可能とするように,コネクタが取り付けられた電気回路基板を収容する電子機器ユニットに関するもので,同一の技術分野に属し, また引用発明に引用例2に記載された発明を適用するに当たって,その適用を妨げるような記載や示唆はないから,引用発明に引用例2に記載された発明を適用 して,本件特許発明のような構成要件Bに想到することに格別の困難性はない。
(3) 引用例2には「フロントカバー30(本件特許発明2の「カバー」)に形成されコネクタ21,22が近接して臨 むケーブル付き」コネクタ接続用の矩形の開口部31,32から成る」という相違点(3)に係る構成が開示されているところ,引用発明と引用例2に記載され た発明は同一の技術分野に属するものであって,その組合せが容易であることは前記(2)説示のとおりである。そして,引用発明において,外部コネクタの数 を1個にすることが当業者が適宜選択し得る設計事項であることは,前記(1)説示のとおりであり,増設コネクタと外部コネクタを2個で1組のコネクタとし た場合に,これらが近接して臨む接続用の開口も2個で1組,すなわち一対となることは自明である。
以上によれば、本件特許発明は、引用発明、引用例2及び引用例3に記載された各発明から当業者が容易に想到できたものであって、進歩性に欠け、特許法29 条2項により、特許を受けることができないものと言うべきである。したがって、本計特許発明は、同法123条1項2号の無効理由を有することになるから、 同法104条の3により、特許権者である原告は、被告に対し本件特許権の請求項1に基づく権利を行使することができない。
なお、原告は、口頭弁論終結後の平成18年12月18日に本件特許の無効審判手続において訂正請求を行ったことを理由として、弁論再開を申し立てた。しか し、当裁判所は、同訂正請求の内容を検討しても、上記結論を左右しない蓋然性が高いと考えるため、口頭弁論を再開しないこととする。と判示した。


3.執筆者のコメント
本件は、審査において拒絶理由通知に挙がった引用例2と、審査における引例より本件特許発明により近い内容の公開公報である引用発明(引用例1)及び引用例3との組み合わせから進歩性なしを結論付けている。
また、原告は、本裁判の口頭弁論終結後、本件特許の無効審判手続において訂正請求を行ったことを理由として、弁論再開を申し立てたが、裁判所は、口頭弁論 を再開しないと判断した。原告側は無効と判断される蓋然性があった時点で、早期に、自発的訂正請求をすべきであったと考える。


(執筆者 東山  香織 )


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