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平成18年12月7日 大阪地裁 平成18年(ワ)第1304号
- 意匠権侵害差止等請求事件 -

事件名
:意匠権侵害差止等請求事件
キーワード
:意匠の類似、考案の構成要件充足性
関連条文
:意匠法23条、37条1項・2項、実用新案法16条、27条1項・2項
主文
: 1.被告は、別紙物件目録1-1(イ号製品[1])、物件目録1-2(イ号製品[2])、物件目録2-1(ロ号製品[1])、物件目録2-2(ロ号製品[2])記載の各製品の製造、販売、若しくは販売の申出をしてはならない。
2.被告は、前項の各製品の半製品(前項の各物件目録記載の構造を具備しているがマンホール蓋受枠として完成するに至らないもの)並びに各製品の製造に用いる型を廃棄せよ。
(以下、省略)


1.事件の概要
本件は、意匠権及び実用新案権を有する原告が、マンホール蓋受枠を製造販売する被告の行為は原告の意匠権及び実用新案権を侵害すると主張し、被告に対し、 侵害行為の差し止め等とともに、意匠権等侵害の不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案である。被告製品の意匠は登録意匠と類似するか、被告製品は登録実 用新案にかかる考案の構成要件を充足するか、原告の権利行使は独占禁止法に違反し権利濫用に該当するか、及び損害賠償額が争点となった。これらの争点のう ち、本稿では、意匠の類似と考案の構成要件充足性を取り上げる。


2.争点及び判決の要旨
(1)
被告意匠と原告登録意匠の類否
(ア)
イ号製品[1][2]と本件登録意匠1の類否
原告は、受座が存在しない意匠が登録意匠1の類似意匠3及び4として登録されているから、受座の存否やその形状の差異は類否判断に影響せず、イ号製品 [1][2]の意匠は登録意匠1と同一であると主張した。一方、被告は、イ号製品[1][2]の意匠と登録意匠1は、平面図における受座の接合部等の形状 が異なるので類似しないと主張した。これに対して裁判所は、被告の主張する相違点は「微小な部分についてのわずかな相違にすぎず、それによって意匠全体の 美感を異にするに至るものとは認められない」とし、イ号製品[1][2]の意匠と本件登録意匠1は類似すると判断した。
(イ)
ロ号製品[1]と本件登録意匠2の類否
原告は、「ロ号製品[1]の意匠は、受座が存在する点を除き、本件登録意匠2の類似意匠1と同一であるところ、本件登録意匠2には、ロ号製品[1]の受座 と同一の受座が存在する。よって、当該受座が存在しない意匠は、それが存在する意匠の類似の範囲内であり、ロ号製品[1]の意匠は登録意匠2に類似する」 と主張した。一方、被告は、「受座の有無は大きな相違であり、本件登録意匠2の類似意匠1の存在をもって、受座の有無が意匠の類否に影響しないとはいえな い」とし、さらに、正面図に表れる形状が相違し、ロ号製品[1]は登録意匠2に類似しないと主張した。これに対して、裁判所は、登録意匠2とロ号製品 [1]との相違点を挙げたうえ、それらのうち、登録意匠1とイ号製品[1][2]との相違点と同様の相違点や正面図における相違点は、「それによって意匠 全体の美感を異にするに至るものとは認められない」とし、これら以外の相違点については、受座の有無を除いて類似意匠1に見られるとした。そうすると、 「ロ号製品[1]の意匠は、実質的には類似意匠1に受座を付したものということができ、本件登録意匠2に対する類似度としては、受座がある分だけ類似意匠 1よりも高い」として、「類似意匠1を踏まえると、ロ号製品[1]の意匠は本件登録意匠2に類似する」と認定した。
(ウ)
ロ号製品[2]と本件登録意匠2の類否
原告は、ロ号製品[2]の意匠は、(a)登録意匠2の類似意匠1には存在しない受座が存在する点、(b)登録意匠2の類似意匠1に存在する手握部が存在し ない点を除き、登録意匠2の類似意匠1と同一であるとした。そして、相違点(a)については、受座が存在しない意匠は受座が存在する意匠の類似の範囲内で あり、相違点(b)については、登録意匠1には登録意匠2の手握部と同一の手握部が存在するが、登録意匠1の類似意匠1には手握部が存在しないことから、 手握部が存在しない意匠は手握部が存在する意匠の類似の範囲内であり、ロ号製品[2]は登録意匠2と類似すると主張した。一方、被告は、受座の有無が意匠 の類否に影響しないとはいえず、また、登録意匠1の類似意匠1が存在するからといって、手握部の有無が登録意匠2の類否判断に影響しないとはいえないと し、ロ号製品[2]は登録意匠2と類似しないと主張した。これに対して、裁判所は、登録意匠1では受座と手握部が設けられているところ、登録意匠1の類似 意匠1では手握部がないものが、類似意匠3では受座がないものが、類似意匠4では手握部と受座がないものが登録されていることを示し、「マンホール蓋受枠 の意匠においては、一般的には、受枠本体の付属品というべき受け座及び手握部の存否は、・・・、意匠全体の類否判断には影響しないと認められる」として、 ロ号製品[2]の意匠は登録意匠2に類似すると判断した。
(2)
被告製品の考案の構成要件充足性
原告は、構成要件「最小限度の突き出し長さの弓形状」について、イ号製品[1]及びロ号製品[1]は、技術的範囲に属することに争いのないイ号製品[2] 及びロ号製品[2]の取付座に手握部が付加された構成であるから、当該構成要件を充足すると主張した。一方、被告は、イ号製品[1]及びロ号製品[1] は、手握部は取付座から開口内部に向かって取付けられており、開口部面積を大幅に狭くしているから、本件明細書に記載された「作業者が地下構造物内で昇降 する際に邪魔になることがな」く、また、「取付座7の大きさ及び個数としては・・・出入りの際の開口部面積を余り減じない程度が好ましい」、との作用効果 を奏さず、「弓形状」の構成要件を具備しないと主張した。これに対して、裁判所は、「本件考案は、従来の受枠では、切削加工時にチャック等で掴む突出部 と、梯子等の器具を取り付ける取付部及び載置片が、それぞれ受枠本体の開口部内周面に突出した状態で設けられていたことから、作業者の昇降の際の邪魔に なっていたという問題点を解決することを課題の一つとし、その解決のために、切削加工時にチャック等で掴む部位と器具を取り付ける部位を兼用させ、かつそ の形状を開口部内周面に沿った弓形状とすることとしたものである」とし、「切削加工時にチャック等で掴む部位と器具を取り付ける部位とが本件考案の「取付 部」としての構成を具備する限り、本件考案がその対象とした課題は解決され、それによる作用効果を奏し」、「他に別の用途での突出部が開口部内周面に存す るとしても、本件考案の構成要件を充足することに消長を来たさない」とした。そして、イ号製品[1]及びロ号製品[1]の平坦な棚部(取付座)は「受枠の 嵌合面を切削加工するのにチャッキング可能な最小限度の突き出し長さの弓形状」を具備していると認め、取付座に手握部が付加されているとしても、本件考案 の技術的範囲に属すると認定した。


3.執筆者のコメント
登録意匠1には4件の類似意匠が存在し、登録意匠2には1件の類似意匠が存在したことから、登録意匠の類似範囲の画定において意匠権者に有利に働いたといえ、類似意匠制度の有効な活用事例といえる。
登録意匠と被告製品の意匠との類否判断について、裁判所は、意匠全体の美感の異同を判断するにとどまり、登録意匠の要部認定に及んでいない点で検討不足との印象を受ける。
考案の構成要素充足性について、イ号製品[1]及びロ号製品[1]の平坦な棚部(取付座)は、請求の範囲の文言どおりの「弓形状」を有することから、技術的範囲の解釈の原則に沿った妥当な判断といえる。


(執筆者 森川  淳 )


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