平成18年11月16日 大阪地裁 平成17年(ワ)第7778号
- 不正競争防止法に基づく販売差止等請求事件 -
- 不正競争防止法に基づく販売差止等請求事件 -
- 事件名
- :リュック事件
- キーワード
- :商品形態の模倣
- 関連条文
- :不正競争防止法2条1項3号
- 主文
- :原告の請求を棄却する。
1.事件の概要
被告が販売するリュックは原告のリュックの商品形態を模倣するものであるとして原告が販売差止請求及び損害賠償請求をした件である。
2.争点及び判決の要旨
(1)争点
被告製品は原告製品の形態を模倣したものか。
(2)判決要旨
(ア)原告商品と被告商品の形態の共通性について
原告商品と被告商品は、全体として似たような形態のものであるとの印象を受けるものである。形態を共通にする部分のうち,ボディの形状が縦長直方体であり,その前面に大きめのポケットを一つ設けていること,サイドファスナーが設けられていること,本体部分と同素材のサイドベルトを設けることというような形態は,原告商品販売前において同種のリュックに従来から見られたものであり,ありふれた形態であることが認められる。
(イ)原告商品と被告商品の形態の相違点について
原告商品と被告商品とは,[1]連結ベルトの有無,[2]チェストベルトの有無,[3]ウィングの形状及び大小,[4]サイドベルトの絞る方向、[5]柄物の有無,[6]内ポケットの有無等が相違している。
[1],[2],[3]の相違点についてみると,これらの点に関する原告商品の構成は,原告商品のうちで相当大きな部分を占める上,いずれも原告商品のデザイン上のアクセントとなっている白化合皮を用いており,統一感のある部品として構成されていて,原告商品の全体の構成のうちで重要な要素を占めるものである。また,原告商品は,これを背負った際,連結ベルトがあるため肩からずり下げた形で背負うことになるが,その場合にも連結ベルトは背負う者の頸部とリュックの間のアクセントとなり,かつストラップやベロに使用している白化合皮と同一素材を用いていることともあいまって,デザイン面においても重要な意味を持つことが認められる。そして,これらの構成を備えた原告商品は,あえてリュックを「下げて」背負うスタイルが近時若者層の間で流行していることに配慮し,連結ベルトを設けて背負う者の頸部後方の両肩の高さの位置に連結ベルトが接触して障害となるために,両肩からずり下がった形でしかリュックを背負えなくするとともに,このような形でリュックを背負っても,なおそのボディが背負う者の背中に密着するように,チェストベルト及び大型で頑丈な素材のウィングを設け,この三者によって,リュックが両肩からずり下がった形を常にとりながら,ずれないよう工夫されているという機能上の特徴を有するものである。
これらの原告商品の形態上の特徴は,原告商品を他社商品から差別化する重要な要素として,需要者に対しても大きな訴求力を持つものになっている。とりわけ,チェストベルト及びストラップ下部に連結された大型で頑丈な素材のウィングの存在は,需要者をして,背負った際の安定感を視覚的に感じさせるものであるから,この点の相違を些細なものということはできない。
原告は,連結ベルト,ウィング及びチェストベルトは,リュックの背面部に設けられているものであるところ,販売店での販売形態ではリュックは前面を見せて売られており,需要者も前面の形状を重視して購入するのが通常であって,背面の形状は,およそ本質的なものとはいえないと主張する。しかし,需要者は,リュックを購入するに際しては当然にリュックの背面に着目するものと考えられ,その際,連結ベルトやチェストベルトの有する機能やその設置位置及び大きさに着目すると考えられる。ストラップ下部に連結するウィングを大型で頑丈な素材のものとしたことも,同様に,背負った際の安定感等を視覚的に表したものとして,需要者が少なからず着目するところと考えられる。
そうすると,これらの点に関する相違が本質的なものでなく,わずかな改変に基づくものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な相違にとどまると評価されるとはいい難いというべきであって,原告の上記主張は採用できない。
被告商品と原告商品との形態上の上記相違は,原告商品から被告商品への改変の内容・程度,その改変が商品全体の形態に与える効果等にかんがみ,決して些細なものということはできない。被告商品は,原告商品との共通点を考慮しても,全体として原告商品の形態と同一であると解されないことはもとより,実質的に同一であるともいえない。
3.執筆者のコメント
原告商品と被告商品とは、原告商品を他社商品と差別化する重要な形態上及び機能上の特徴点に関して、相違点[1],[2],[3]が認められるから、両商品の形態が実質的に同一でないとした判決は妥当と思われる。
(執筆者 高瀬 彌平 )