平成18年4月27日 大阪地裁 平成15年(ワ)13028号
- 実用新案権損害賠償請求事件 -
- 実用新案権損害賠償請求事件 -
- 事件名
- :二輪車の取外し可能ハンドル事件
- キーワード
- :技術評価書、警告、過失
- 関連条文
- :実用新案法29条の2
- 主文
- :原告の請求を棄却する。
1.事案の概要
本件は、原告が技術評価書を提示して警告する前にした被告のキックスケーターの販売行為が実用新案権を侵害することを理由とする損害賠償請求事件である。
2.争点及び判決の要旨
争点は、(1)被告商品が、本件考案の構成要件エ「位置調節可能な快速取外し装置が設けられ、」を充足するか、(2)被告の過失の有無、である。
判決の要旨は以下のとおりである。
(1)に関して、被告商品の取り外し装置のレバーの操作によって簡単快速にハンドル支え棒とT字型連接管の締め付けが取り外せ、これによって位置の調節が可能になるから、被告商品には、位置調節可能な快速取外し装置が設けられている。
(2)に関して、権利の濫用を防止するとともに第三者の過度な調査負担を防いで適切な権利行使を担保するという実用新案法29条の2の趣旨から、技術評価 書を提示しない警告がされたとしても、そのことから直ちに、その後の侵害行為について相手方に過失があるとはできないし、また、相手方が実用新案の存在を 知っていたとしても、既に第三者に対する警告において提示された技術評価書を知っている等の特段の事情がない限り、実用新案権の侵害について過失があると いうことはできない。
原告商品には、「PAT.PEND」と刻まれているが、これは特許出願中と理解されるものであり、これを見たことにより、実用新案権の内容、査定の有無、 権利の有効性についての調査義務を負うとか、上記特段の事情があるということはできない。被告が原告の代理店であった時期に開催された代理店会議において 本件実用新案が出願中であることを口頭説明で聞いた者もいるが、書面に記載せず口頭で触れた程度では、そのことから直ちに、被告が本件実用新案の内容を 知っていたといえない。原告が配布した書面では「ショルダーストラップP.T」「マルチマウントクリップ pat.p」の表示はされていたが、本件実用新 案権の登録番号や技術内容を明示した書面は配布されていない。平成15年5月頃に被告商品にした知的財産権侵害の主張でも本件実用新案権には言及していな かった。
そして、他に、本件警告より前に、被告について上記特段の事情を認めるに足る証拠はないから、警告より前の被告商品の販売について被告に過失があったということはできない。
3.執筆者のコメント
技術評価書を提示して警告する前に相手方が実用新案の存在を知っていたとしても、既に第三者に対する警告において提示された技術評価書を知っている等の特 段の事情がない限り、実用新案権の侵害について過失があるといえない旨の判示事項からすると、原告の主張・立証は、被告が実用新案を知っていたことすら立 証できないもので、極めて不十分なものであった。原告は、警告をしなくても実施者が出願内容を知っていれば権利の行使ができる補償金請求権(特許法65 条)と同じと考えたのかもしれない。
(執筆者 高瀬 彌平 )