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平成18年3月30日 大阪地裁 平成16年(ワ)第1671号
- 不正競争行為差止等請求事件 -

事件名
:不正競争行為差止等請求事件
キーワード
:商品形態の模倣性、商品形態の周知性、独占的販売権者の権利主体性
関連条文
:不正競争防止法2条1項1号、同2号、同3号、同3条、同4条、同5条2項2号(平成17年法律第75号による改正前のもの)
主文
:1.被告は、原告に対し、2010万4128万円及びこれに対する平成17年9月1日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2.原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3.訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の、その余を被告の各負担とする。
4.この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。


1.事案の概要
本件は、いわゆるストラップレスでバックレスタイプのブラジャー(商品名「ヌーブラ」・以下原告商品と呼ぶ)の独占的販売権者である原告が、同じタイプの ブラジャー(別紙イ号物件目録記載の商品・以下イ号物件と呼ぶ)を輸入・販売する被告の行為を不正競争行為に該当するとして、同被告に対しイ号物件の輸 入、販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、損害賠償請求を請求した。裁判所は、被告の商品形態模倣行為を認め、原告の損害賠償請求を認めた。なお、被告 はイ号物件について平成15年7月から平成17年8月にかけて販売した。


2.争点及び判決の要旨
(1)
争点:不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為の成否
判示事項:
(原告商品及びイ号物件の商品形態の同一性について)
原告商品の形態は、次の通りであると認められる。
(ア)基本的形態
・独立した左右2個のカップから成るブラジャーである。
・肩ひも、横ベルト等の身体に装着する部材が全くない。
・2個のカップの相対する部分に両カップを連結するフロントホックが設けられている。
・左右2個のカップは、いずれも眼鏡のレンズを逆さにしたような形状をしている。
(イ)具体的形態
・全体的に肉厚で、ブヨブヨして、すぐに形が崩れる柔らかい質感を有している。
・カップは、表面及び裏面とも全体に肌色のシリコンを薄いビニールで包んだような半透明状の膜で覆われ、周辺部ほど肌色に薄くなり、表面には細かな皺がよる。
・カップの裏面には、粘着層に由来する光沢がある。
イ号物件の形態は、上記原告商品の形態のうち、
・カップが、表面及び裏面とも全体に乳白色で不透明の膜で覆われている(具体的形態)
ことを除いては、原告商品の形態と一致する。
(商品形態の模倣性について)
被告から示された証拠からは、原告商品の米国販売開始(平成14年10月)以前に原告商品の形態を備えた他のブラジャーが販売されていると認められず、ま た同種の商品の有する通常の形態であるとはいえないため、原告商品がBII社(原告に独占的販売権を付与した者)により開発された新規なものであると推認 するのが相当である。
また、イ号物件の形態は、原告商品の形態と、上記の通りカップの表面の色及び透明性において相違するが、それ以外は同一といえるほど酷似していることに照 らせば、イ号物件の形態は、原告商品の形態に依拠して作られたものと推認することができる。なお、この点につき、被告は、原告商品の中身がシリコンゴムで あり、イ号物件の中身はシリコンフォームであることにより、その包皮に視覚的相違があると主張するが、検甲第1、第2号証によれば、包皮の色は格別、それ 以外の色彩や光沢、質感には大きな視覚的相違はなく、原告商品の形態とイ号物件の形態は実質的に同一であるというべきである。
(独占的販売権者の権利主体性について)
独占的地位ないし利益は、上記のような同号が保護しようとした開発者の独占的地位に基礎を有し、いわばその一部が分与されたものということができるから、 第三者との関係でも法的に保護されるべきものというべきである。また、不正競争防止法においては、差止請求の主体については同3条1項に「不正競争によっ て営業上の利益を侵害され、…」とあり、損害賠償請求の主体については同4条に「営業上の利益を侵害」された者としていることから、独占的販売権者の権利 主体性を認めても、法文の文言上の妨げはないというべきであるこの点、特許法100条1項とは異なる。

(2)
争点:不正競争防止法2条1項2号ないし1号の不正競争行為の成否
判示事項:
(原告商品形態の周知性・著名性について)
原告商品は、平成15年2月の国内販売開始後、同年6月ころまでには話題になり、何度もマスメディアに取り上げられた。8月に入ると類似品が出回っている ことも新聞で記載されるようになった。このことからすると、類似品の数も増大したものと推認される上、同時に並行輸入品も出回るようになり、平成15年末 時点では、類似品と並行輸入品の売上量が原告商品の売上量を上回る事態となっていた。
これらの類似品の形態は、原告商品とよく似ており、商品形態のみでは容易に識別することができないものが非常に多かったものと推認される。これらのことから、原告商品が特定の出所を示す商品表示として周知性を獲得したとは認められない。
また、並行輸入品については、この流通には原告は介在していないから、これが原告の商品であるとはいえず、この商品形態が原告の出所を表示するものとはい えないところ、並行輸入品の商品形態は、当然ながら原告商品のものと同一である。並行輸入品の流通量もある程度のものがあったと考えられることからする と、原告商品の形態が原告の出所を示す商品表示としての周知性を獲得したものと認められない。
また、上記により、原告商品の商品形態が、原告の出所を表示する著名な商品表示であると認めることができない。


3.執筆者のコメント
原告商品は国内販売開始以降、「ヌーブラ」という商品名で人気商品となり、類似品も多く販売された。
本事件は、原告が類似品の販売会社等に対して提起したいくつかの訴訟事件の一つである。本事件で、裁判所は、他の事件と同様に原告商品の著名性・周知性は否定したものの、被告の商品形態模倣行為を認め、損害賠償を命じた事案である。


(執筆者 原田    泉 )


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