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平成18年1月17日 大阪地裁 平成16年(ワ)14355号
- 意匠権侵害差止損害賠償請求事件 -

事件名
:手さげかご
キーワード
:意匠の類否、類似意匠、公知意匠、意匠の要部
関連条文
:意匠法23条、24条、旧10条、48条
主文
:原告の請求をいずれも棄却する。


1.事案の概要
本件は、原告が有する手さげかごの意匠権を被告が製造販売しているスパーマーケット用手さげかごが侵害していることを理由とする侵害差止損害賠償請求事件である。


2.争点及び判決の要旨
争点は、イ号意匠が本件登録意匠と類似するかである(主に、手さげかごの周側面の孔の形状と配列、底面から周側面下部の透孔の形状の異同が争われた)。判決は、先ず公知意匠及び類似意匠を検討して本件意匠の要部を認定し、次いでイ号意匠と類否判断をしている。
(1)本件意匠の要部認定
意匠の類否を判断するに当っては、意匠を全体として観察することを要するが、意匠に係る物品の性質、用途、仕様態様、さらには公知意匠にない新規な創作部 分の存否も参酌して、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察 して、両意匠が全体として美観を共通にするか否かを判断すべきである。
[1] 本件意匠の構成は、基本態様及び具体的構成態様[1]~[9]と認められる。
[2] 同一物品の公知意匠との対比
別紙手さげかごの公知意匠マップに記載された意匠と対比すると、本件意匠の基本態様は公知であり、また、具体的構成態様[1]~[9]のうち、[2]、 [4]の一部と[1]、[6]、[7]の全部は公知であるから、具体的構成態様[2]~[5](周側面の孔の形状と配列)、[8](底面から周側面下部の 透孔の形状)が新規な構成である(具体的構成態様[9]を除いた理由は判決に記載されていない)。
[3] 同一物品以外の公知意匠との対比
公知意匠1は自転車用前かごの意匠で、自転車用かごと買い物かごとは、物品の用途及び機能が相違するから、同一部品という事は出来ないが、「かご」の意匠 として、ほぼ同一の高さの縦長直方形状の孔を、中心線が上下方向の同一線上に列設される複数個の透孔が列を形成し、中央から左右に離れるに従って次第に傾 斜して、扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方に拡開して形成されて配設されている意匠(公知意匠1)が公知となっていたのであり、このことは、本件意 匠の要部認定において参酌すべきもの。公知意匠2は果物や野菜の採集かごの意匠で、手さげかごと用途及び機能が類似する類似物品である。公知意匠2は、同 一高さの縦長直方形状の孔を、中心線が上下方向の同一線上に列設される縦5個の透孔が列を形成し、中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して、扇の骨の ごとく最下段から最上段まで上方に開拡配設される点で共通する。
[4] 類似意匠の検討
類似意匠は本件意匠の要部認定の参考にするが、本件意匠とイ号意匠の類否判断に拘束力を持つものではない。類似意匠3(イ号意匠に最も近いもの)には無効 事由があるので本意匠の要部認定の参考にならない。類似意匠1及び4においては、周側面の孔の配置及び形状は本意匠と同じである。同5については周側面の 孔の配置については縦列及び横の段の数は相違するが他は本意匠と同じ、同2については、周側面の孔の配置に付いて、縦列の数が異なり、最上段の孔の高さが 他の段の略2倍である点で相違するが、他は本意匠と同じである。
[5] まとめ
本件登録意匠の要部は、類似意匠2の存在も考慮すると、具体的態様[2]~[5](周側8面の孔の形状と配列)にあるものと認められる。また、ウエイトは低いものの[](底面から周側面下部の透孔の形状)も看者の注意を惹くものと認められる。
(2)類否判断
本件登録意匠は、全体として柔らかく、かつ整然とした、まとまりのある印象を与える点が意匠全体から受ける美観の中でも特に印象に残る。下辺部のリブ形状により、異なる2種類の形状を用いているように見える点も印象に残る。
イ号意匠と本意匠の要部における相違点は、かごの周側面の孔及び孔群の配列については、横一列あたりの孔の数の比率が上段孔群と中段及び下段孔群とでは2 対3となっており、それに伴って孔の幅が異なっている上、上段孔群と中段及び下段孔群とでは孔の幅の広さに違いがあり、さらに下から上へ行くほど孔の高さ も高くなるため、上段孔群と中段及び下段孔群の2段組の印象を与え、また上部の孔の面積が大きいため、開放的な印象を与える点が看者の印象に強く残る。さ らに周面側下部及び底面のリブの形状についても、イ号意匠では、上部と下辺部とが連続性を維持している印象を看者に与える。
イ号意匠は、本件登録意匠の要部について一部共通点を有するが大きな相違点があるので、全体として相違点が共通点を凌駕し、本件登録意匠とは美観を異にするというべきである。従って、イ号意匠は、本件登録意匠とは類似していない。


3.執筆者のコメント
本判決によれば、本件登録意匠の要部認定は、本件意匠の構成態様+類似意匠-公知意匠、により認定されるから、意匠権者にとっては類似意匠(関連意匠)を 取得することが、被告にとっては公知意匠を提出することが、それぞれ有利に働くことが分かる。本件の場合、イ号意匠に最も近い類似意匠3に無効事由がある と判断され、要部認定に参酌されなかったことが勝敗を分けたようである。また、本判決が本件意匠の要部認定に際して、非類似物品である自転車用かごの公知 意匠も参考にした点が印象的である。


(執筆者 高瀬  彌平 )


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