平成17年12月8日 大阪地裁 平成17年(ワ)310号
- 特許権侵害差止等請求事件 -
- 特許権侵害差止等請求事件 -
- 事件名
- :道路照明装置事件
- キーワード
- :特許権侵害、技術的範囲
- 関連条文
- :特許法100条1項、2項、70条1項、2項
- 主文
- :原告の請求をいずれも棄却する。
1.事案の概要
本件は、「道路照明装置」の特許権を有する原告が、道路照明装置を設置している被告に対し、特許権の侵害にあたるとして差止及び損害賠償を請求したが、技術的範囲に属しないとして請求が棄却された事案である。
2.争点及び判決の要旨
光源部と筒状発光部とからなり複数個を長手方向連続的に設置してなる原告の道路照明装置の発明における「複数個を長手方向連続的に」なる構成要件の意味内容、及びこれを被告製品が充足するか否かが争点となった。
裁判所は、明細書の発明の効果の部の、「ほぼ連続した放出光が・・・連続して照明することになるので、・・・連続した光の帯により『ちらつき』が発生しな い。」との記載に基づき、「光源部と筒状発光部からなるユニットからの放出光が、『ちらつき』が発生しない程度に連続した光の帯となるように、各ユニット が連続しているという意味」と認定し、次いで、「ちらつき」に関し、証拠の辞典類に「数サイクル/秒から、数十サイクル/秒の速さの光の周期的変動によっ て起こる視覚感」等の記載があることを根拠に、「ちらつきが発生しない状態」を、「自動車で走行した場合に、光の帯がとぎれることがあってもごく短い時間 であるため、ドライバーの眼には明滅が感じられない程度である状態をさす」ものと解釈した。
被告製品の道路照明装置では、一連の光源部、筒状発光部及び無発光部が(単独無発光部を介し又は介さずに)反復して連結された形で設置されていた。
裁判所は、被告製品が設置された江島大橋の路面に、被告製品に「『無発光部』及び『単独無発光部』が存在する影響により、その発光部と無発光部及び単独無 発光部にほぼ対応した状態で明るい場所と暗い場所が存在する」、及び「同大橋を制限速度である時速40km毎時で自動車により走行した場合、車内は1秒間 に1回に満たない周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す」との証拠により、同じ周期でドライバーに光の明滅が感じられるからとして、上記解釈より、 被告製品につき、「連続した光の帯により『ちらつき』が発生しない状態に至っているとは認められない」と認定し、本件発明の技術的範囲に属するとは認めら れないとした。
3.執筆者のコメント
本件装置は構造的特徴のほか設置状態、取り分け「複数個を長手方向連続的に」の語によって限定されているが、審査での引例を見る限りでは、設置状態をそこ まで限定する必要は本来なかったように思われる。なお、判決中、ちらつきを特定の周波数範囲の内側すなわち「数サイクル/秒から、数十サイクル/秒の速さ の光の周期的変動によって起こる視覚感」等とする証拠記載を採用しながら、「ちらつきが発生しない状態」の解釈においてはこれより低周波数側までもがちら つきを生じる状態に含められている。採用された証拠からこの解釈が導かれた点には、論理的断層があると思われる(なお被告製品での「1秒間に1回に満たな い周期」は、この低周波数側にある)。
(執筆者 早坂 巧 )