平成17年11月10日 大阪地裁 平成16年(ワ)14709号
- 特許権侵害差止等請求事件 -
- 特許権侵害差止等請求事件 -
- 事件名
- :キャスター付き鞄事件
- キーワード
- :クレームの用語の意味、進歩性
- 関連条文
- :特許法 第70条第2項、第29条第2項
- 主文
- :原告の請求を棄却する。
1.事案の概要
本事案は、特許権に基づく製造販売等の差止請求等の訴訟対象物である被告製品は、クレームの用語の意味に照らして特許権の権利範囲に属さないと認定された事件である。
2.争点及び判決の要旨
(1) | 争点 「キャスター付きの鞄」に係る請求項1記載の発明の構成要件E「ケース本体(4)から引き上げられた握り部(3A)が、ケース本体(4)上面の左右の中央 に位置して、ケース本体(4)上面の長手方向に向く姿勢に位置する」にいう「中央」の用語の意味として、“中央側”までを含むか否か。 |
(2) | 判示事項 「本発明の重要な目的は、伸縮ロッドを引き延ばした状態で、握り部をケース本体の左右の中央部に配設できるにもかかわらず、伸縮ロッドを邪魔にならない位 置に配設して、ケース本体の内部を有効に収納部分として使用できる…を提供することになる。」との記載、その他の各記載、及び本件出願前に公開された同人 の出願である同一技術に係る実用新案公報の記載を参酌して、引き上げられた握り部の位置は鞄全体の重心位置の鉛直上方にできるだけ近づけるようにするため に「中央」としたものと解釈できるとし、「中央」の用語の意味を、厳密に解釈するものではないとの余地があるとしても、鞄の側部から見て中央側であれば足 りるという程度にまで幅の広いものと解釈することはできない。 その理由として、①原告の訴訟における「中央側であれば足りる」とする主張は、明細書に何ら示唆されていない。②「中央」を「中央側」を含むと解釈すれ ば、鞄の上面の左右の幅の内、中央でない部分が、全体の1/4未満となり、これでは、引き上げられた握り部の位置は鞄全体の重心位置の鉛直上方に所在する のが最も望ましいとする構成が本件発明の作用効果を奏するとは限らず、本件特許はこの点において無効理由を有することとなるから、そのように解釈するべき ではない。③「中央」の意味を中央側まで含むと広く解釈すれば、引用例1,2及び乙第5号証刊行物記載の発明から容易に想到でき、無効理由を有することと なるから、そのように解釈するべきではない。 |
3.執筆者のコメント
本件明細書の段落0011には、確かに「本発明の鞄は、必ずしも、握り部3Aを正確にケース本体4の左右に中央に位置させる必要はなく、握り部3Aをケー ス本体4のほぼ中央に位置させるものも含む。」との記載が見られるものの、この「ほぼ中央」との意味は、あくまで本件発明の作用を奏する範囲において解釈 するべきである。したがって、クレーム中の用語の意味を解釈するに当たっては、明細書中の文言のみに頼ることなく、発明の目的、構成、作用効果に照らして 判断するべきである。
別紙計測図面によれば、被告製品には、鞄の左右方向の中心から、取手が取り付けられている鞄側部までの距離Dと、引き上げられた握り部の鉛直線までの距離 aとの比率(a/D)が、35%以下となるものはないから、この比率を「中央」の範囲に含める主張には無理があると思われる他、権利を広く解釈することは 無効理由に対する危険と裏腹であることを考えれば、訴訟提起前における先行技術の慎重な調査が肝要である。
(執筆者 )