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平成17年9月8日 大阪地裁 平成16(ワ)10351号
- 不正競争行為差止等請求事件 -

事件名
:ストラップレス・バックレス・ブラジャー事件
キーワード
:周知商品形態と類似、著名商品形態と類似、商品形態模倣
関連条文
:不正競争防止法第2条1項1号、同第2号、同第3号
主文
:原告の請求をいずれも棄却する。


1.事案の概要
本件は、米国企業が製造販売するブラジャーの日本国内における独占的販売権者である原告が、ブラジャーを輸入し、販売する被告に対し、不正競争防止法第2 条第1項第1号、同第2号、同第3号違反を理由として、同法第3条第1項に基づき被告のブラジャーの輸入・販売の差止、同法第3条第2項に基づきその廃 棄、同法第4条に基づき損害の賠償を請求した事案である。


2.主な争点及び判決の要旨
主な争点は、(1)原告商品の形状は同種の商品が通常有する形態か、(2)被告商品の形態は原告商品の形態を模倣したものか、(3)原告商品の形態は周知 な商品表示か、(4)被告商品は原告商品との混同を生じさせるおそれがあるか、(5)原告は「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者(同 法第3条)」、営業上の利益を侵害された「他人」(同法第4条)に該当するか。

裁判所の判示事項は以下のとおりである。
(1)に関して、原告商品の形態は、a独立した左右2個のカップからなるブラジャーであり、b肩ひも、横ベルト等の身体に装着する部材がない、c2個の カップの相対する部分に両カップを連結するフロントホックが設けられている、d左右2個のカップは全面視でいずれも略半円形をしている(以上を基本的形態 という)、e全体に肉厚でブヨブヨしていてすぐに形が崩れる軟らかい質感を有している、fカップは半透明状の膜で覆われている、gカップの裏面は粘着層に 由来する光沢がある(以上を具体的形態という)、という特徴を備えている。このような原告商品の特徴的各要素は従来商品の中にみられるが、各要素の全てを 具備したものは存しない。従って、原告商品の形態は、同種の商品が通常有する形態であるとはいえない。
(2)に関して、「模倣」とは、当該他人の商品形態に依拠して、これと形態が同一であるか実質的に同一といえるほどに酷似した形態の商品を作り出すことを 意味し、基本的形態及び具体的形態において実質的に同一であることが必要である。しかし、被告商品は原告商品に対して、基本的形態が同一であるが、具体的 形態の一部に相違がある。即ち、商品の重量が違い、乳房の形状補正機能があり、この点はブラジャーの機能上重要なもので、無用な改変ではないことを考慮す ると、両商品の形態が実質的に同一であるとまではいえない。従って、原告の同法第2条第1項第3号に基づく主張は、理由がない。
(3)に関して、原告商品の形態が原告の周知な商品表示となったことは首肯し得るが、同時期に類似品(並行輸入品を含めて)が原告商品よりも数多く出回っ ており、商品形態のみで原告の出所を識別するだけの周知性を獲得するには至らなかったと認めるのが相当である。従って、原告商品の商品形態が原告の出所を 表示する周知な商品表示であるとは認められない。

前記(3)が認められないのであるから、原告の2条1項1号に基づく主張は、その余について判断するまでもなく理由がない。
(5)については、判示されていない。


3.執筆者のコメント
前記(3)の判示は、原告の商品形態が雑誌の紹介等で周知な商品表示となったことが認められるとしても、同時期に多数の類似品が出回っていれば、その商品 形態が原告の出所を識別するだけの周知性を獲得するには至らなかったということを意味する。これを実質的に予防するにはどのような方策があるのか、執筆者 には判断がつかない。原告は独占的販売権者にすぎない、これがオリジナルな商品開発者であれば、もう少し有利な認定をしてもらえるのであろうか。
争点(5)は何ら判示していないが、争点(1)~(3)を判断したことは、間接的に独占的販売権者に差止請求、廃棄請求及び損害賠償請求をなし得る地位を認めたものと理解できる。


(執筆者 森下  武一 )


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