平成17年9月5日 大阪地裁 平成16(ワ)2398号
- 商標権侵害の債務不存在確認請求事件 -
- 商標権侵害の債務不存在確認請求事件 -
- 事件名
- :子供服キャラクター商標事件
- キーワード
- :信用毀損に基づく損害、使用料率、時機に遅れた主張
- 関連条文
- :商標法25条、同38条、民訴法146条、民訴法157条1項
- 主文
- :原告の本件本訴に係る訴えを却下する。原告は、被告に対し、267万円2274円および遅延金を支払え。被告のその余の反訴請求を棄却する。
1.事案の概要
(1)本訴事件は,繊維製品等の販売等を業とする原告(本訴原告:侵害者)が,子供向けキャラクターの商標権を有する被告(本訴被告:商標権者)に対し, 原告が同商標権に係る商標を使用した衣服(ブランド名はCONVEX)を販売等した商標権侵害行為に基づき,原告が被告に対して190万8767円を超え る損害賠償債務を有しないことの確認を請求した事案である。
(2)反訴事件(H17(ワ)1891)は,被告が原告に対し,本訴に係る原告の商標権侵害行為に基づき,1億6507万8290円の損害賠償及びこれに 対する平成15年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
2.主な争点及び判決の要旨
本件の争点は,原告の本件商標権侵害行為によって被告が被った損害の額である。
原告主張の190万8767円は、(販売額-回収額)×5%が根拠。被告主張の約1億6507万8290円は、原告が被った信用毀損分1億円+原告の販売額×10%が根拠。
裁判所は、本訴の債務不存在確認訴訟については、提起時点では確認を求める利益があったが、これと訴訟物を同じくする反訴の提起により、確認の利益が無くなったとして、不適法と判断し、却下した。
被告が主張する1億円の信用毀損についての損害賠償は、被告による文房具などの指定商品以外の商品販売の企画が原告の侵害行為によって実現できなくなった、無形の信用が損なわれた、などを根拠として求めたものであるが、裁判所は認めなかった。
販売・納品した数量及び金額については、被告が提出した資料及び被告が申し立てた調査嘱託に基づいて、事実認定をした。商標の使用料率については、双方の中間の7%とし、損害額を267万円2274円とした。
調査嘱託の申立は第3回口頭弁論期日の直前であったことから、原告から時機に後れたものであるとして民訴法157条1項に基づく却下を求めた。裁判所は計画審理の観点から適切でないとしつつ、故意または重大な過失に当たらないとして、限定的に調査嘱託を認めた。
なお、被告は販売数量について争ったが、裁判所は上記の調査嘱託を認めたなどの経緯から、被告の反論を制して弁論を終結した。
3.執筆者のコメント
原告(侵害者)が被告(商標権者)からの警告後、直ちに商品を引き取り、損害賠償して早く決着しようとしたのに対し、被告の対応が常に後手に回った印象が ある。ただし、大企業である原告の大量販売によって、被告の人気キャラクターの商品の寿命が縮まり、数量や金額に現れない大きな損害を受けたであろうこと は推測できる。そのため、これらの無形の損害をもっと立証できなかったか、裁判所でもこの事情をもっと汲み取ることができなかったか、考えさせられる事件 である。とくに争点が単純な事件の場合、計画審理、調査嘱託などについて、充分な注意が必要と思われる。
(執筆者 秋山 重夫 )